無痛分娩とは
無痛分娩をもう少し詳しく
- ① 硬膜外麻酔を用いる方法
② 脊椎麻酔(脊髄くも膜下麻酔、腰椎麻酔)を用いる方法
③ 眠り薬や鎮痛剤を用いる方法
に分けられます。(それぞれを組み合わせて使う方法もあります。)
痛みを取り除く効果はさまざまで、
③は完全な無痛に近い状態を得ることはできますが分娩時の記憶がないという短所があったり
②はお腹から下の感覚がなくなったり、産後も麻酔が効いて一時的にしばらく歩けないとか、
いきむ力の抑制が強いと言われています。
①の硬膜外麻酔を使った方法では痛みを取り除く効果はやや弱いですが、
意識や感覚が残っていて出産時の喜び・感動を味わうことができるという長所があります。
現在、欧米では分娩の半数以上に無痛分娩が行われている国もあり、広く普及していますが、日本ではまだ6.6%と少ないとの報告があります(2017)。
当院で行っている無痛分娩は、主に硬膜外麻酔を使っての方法です。
麻酔をかけた分娩というと「眠った状態での出産」をイメージされる方もいらっしゃるかもしれませんが、硬膜外麻酔の無痛分娩は、意識をなくさず、痛みをコントロールした状態で、しっかりといきんで出産してもらうので、「出産時の感動を味わうことができないのでは?」といった心配はいりません。
当院での硬膜外麻酔の方法は
また、薬の投与方法は一括投与や持続投与がありますが、患者さんの合併症、体格、精神状態など様々な条件によって、より確実な方法を選んでいきます。
当院での無痛分娩の実際は
そこで、2016年ころからは正期産の時期に入ったあと、赤ちゃんの体重や子宮口の熟化傾向を見ながら分娩誘発する日程を決める計画分娩を原則にしています。
38週前後で日程を決めて入院してもらい、子宮口を開大させる水風船を挿入し、赤ちゃんの元気さを確認の後、陣痛促進剤を微量から開始し徐々に増量していきます。子宮口の開大が4cmを超えたら硬膜外麻酔を留置し(前述)、無痛分娩にします。麻酔が効いた後は、破水させたり、短時間効く眠り薬で緊張を取り除いたりして分娩を進めていきます。
無痛分娩のメリット・デメリット
無痛分娩のメリットは、
①陣痛の痛みの緩和。陣痛に耐える疲れなど、
お産における母体への負担はかなり軽減されます。
②分娩後、体力の温存により早くから赤ちゃんと向き合えるのも大きなメリットと思います。
③出産年齢の高齢化に伴う妊婦さんの骨盤や組織の硬さによる難産、妊娠高血圧や心疾患、妊娠糖尿病、子宮筋腫などの婦人科疾患が分娩進行の妨げになりそうな方、精神面での持病や不安定さを持っている方・・・これらの方々の分娩には無痛分娩は有効な方法です。
④痛みに耐えられず帝王切開になることがないため帝王切開は減ると報告されています。
⑤麻酔が効いた後、急変に伴う帝王切開が迅速に行えるというメリットも大きいと思います。
赤ちゃんに対する影響はほとんどないと言われています。しかし、母体に麻酔がかかることによって母体低血圧となり、赤ちゃんに届く血液が一時的に減り胎児徐脈が出現しやすいなどの指摘もあります。しっかりと母体と胎児の状態を観察しながら分娩を進めることが、安全な出産の絶対条件だと考えます。
無痛分娩のデメリットは、
経済的な負担が増えることの他は、妊婦さんのいきむ力が弱くなり、吸引分娩や医師や助産師がお腹を押して分娩に至る割合が増えること(半面帝王切開は減りますが)。無痛分娩で子宮口が全開してからの分娩時間がいくらか延長することが挙げられます。その他、麻酔手技による合併症もまれにあります。
当院では、原則『麻酔科標榜医』の院長と経験豊富な医師が出産を担当します。妊婦さん一人ひとりの状況にあわせて麻酔の量や濃度を調節し、妊婦さんと一緒により良いお産を目指します。
一生のうちでも数少ない大イベントの出産です、
それぞれの患者さんに合わせたより良い方法を一緒に考えていけたらと思います。
当院の出産実績(2014~2023)
年 | 分娩件数 | 無痛分娩 件数 |
帝王切開数 | 普通分娩 |
2014 | 123 | 87 (70.7%) |
22 (17.9%) |
14 (11.4%) |
2015 | 172 | 111 (64.5%) |
28 (16.3%) |
33 (19.2%) |
2016 | 195 | 139 (71.3%) |
18 (9.2%) |
38 (19.5%) |
2017 | 225 | 181 (80.4%) |
16 (7.1%) |
28 (12.4%) |
2018 | 242 | 183 (75.6%) |
27 (11.2%) |
32 (13.2%) |
2019 | 274 | 228 (83.2%) |
20 (7.3%) |
26 (9.5%) |
2020 | 316 | 265 (83.9%) |
32 (10.1%) |
19 (6.0%) |
2021 | 433 | 393 (90.8%) |
18 (4.2%) |
22 (5.1%) |
2022 | 448 | 425 (94.8%) |
20 (4.5%) |
3 (0.7%) |
2023 | 493 | 473 (95.9%) |
15 ( 3.0%) |
5 (1.0%) |
(2024年1月)