遂に遭遇! 重症 常位胎盤早期剝離
2018年11月28日 水 曇りのち雪
11月もあと2日
もう師走なのに札幌は日陰の雪が少し残るくらいで、まだ自転車に乗れそうな路面状態。
時折雪がちらつくものの、今年は観測史上最も初雪が遅いとかニュースで流れていて、本格的な冬はいつになるやら・・・
この11月 当院にとっては激しい1か月になりました。
前回11月12日付けのブログで、5周年を過ぎてから、帝王切開と救命センターへの搬送が続いた件を書きましたが、実は・・・
11月13日連日の産科救急疾患に遭遇する事件が起きました。
最も会いたくない病気(というか事件)の一つ 常位胎盤早期剝離でした。
患者さんは43歳の高齢妊娠で上に3人のお子さんがいるベテラン妊婦Nさん。
妊娠32週くらいに室蘭の病院から「産むのが怖くなった」とのことで、無痛分娩を希望して、片道2時間半かけて西胆振地方から通院してくれていました。
普段は明るく楽しいおしゃべり好きなNさんですが、妊娠末期が近づいて来ると、「おっかなくなってきた~」と言ってちょっと顔色が優れない様子でした。
これも何かの知らせだったのかも・・・
事件が起こったのは11月13日
前の日12日に、胎児仮死後の緊急帝王切開をした患者さんの弛緩出血。
血液型不適合で輸血も問題だったっていう症例を救命センターへ送ったばっかりだったから
「今日はひどいことは起こらないでしょ」
って、思い返せば高をくくってたかもしれません。
その日は、遠くからくるNさんの誘発だったので、いつもより遅く10時から開始して、昼の12時過ぎには手術室で子宮頚管無力症の患者さんの子宮頚管縫縮術を行う予定でした。
13:20 子宮頚管縫縮術が無事終了
僕は予定通り、誘発中のNさんのLDRに直行。
子宮口4㎝開大し、痛みがついてきているNさんに硬膜外麻酔を施行。
他のスタッフは手術室の跡片付けと、術患さんの管理に向かう人、午後の診療に向けて急いで昼食を摂りに行く人・・・など「分業」してました。
13:27 L2/L3に硬膜外麻酔カテーテル挿入
13:30 L5/S1に硬膜外麻酔 ワンショットで薬液注入
13:40 人工破膜
血圧低下を認め昇圧剤使用し軽い鎮静剤も投与
麻酔が効いていて痛みはないモノの、Nさんが急に「気持ち悪い」「吐きそう!」って訴えて何か変な反応だと認識したところ
13:46 突然胎児心音が140台→54まで急降下
酸素投与して体位替えたりするも、胎児心拍は全く変わらず 54回/分でFlat
腹部触診で子宮は間欠なくガチガチに硬く、「常位胎盤早期剥離だ!?」って
13:55 緊急帝王切開を宣言
休んでる人、術患者さんとこにいってる人、助手さんも看護師さんも大至急招集!
手術室準備!
器械出し超緊急で用意!!
患者さんにつく人!尿カテ入れて!!(血栓予防の)弾性ストッキングは時間かかるならポンプだけでいいから!!
そばにずっとついていてくれた旦那さんに、「胎盤はがれて赤ちゃん死にそうな状態で超緊急で帝王切開します。後でゆっくり説明します」との話だけして・・・
LDR(陣痛室)は文字通りの修羅場と化しました
前の手術で運よくいてくれた後藤先生のお力も借りて
14:00 LDRから「5m」移動して手術室へ入室
14:01 緊急帝王切開開始
14:02 児娩出! 赤ちゃんは直ぐにしかめっ面して、泣いてくれました
間に合った~
出てきた赤ちゃんはpH7.08で結構辛そうだったけど、思いのほか元気でした
胎盤は、はがれていたのでするっと摘出。
胎盤がついていたところは紫色に変色して、完全に早期剥離の典型的な悪い所見
胎盤出た後は、子宮が浮腫んだタコの頭みたいにブヨブヨになって、触るところから子宮が裂けちゃって、出血が縫っても縫っても針穴から出てきちゃう最悪パターン
普段の倍くらいかかって止血するけど完全には不可能な感じで、見る見るNさんの顔色が黄色く血の気がなくなっているのが分かるし・・・
術中に、転院搬送に連日で市立病院の救命センターへ受け入れを依頼
「出血コントロールつかないので直ちに輸血をお願いしたい」と副院長から依頼してもらって快諾
15:30 救急要請したら手稲消防署の救命士さんたちが手術室に来てくれて、手術室から転院へ
覆布をはがすと一面の出血で床から手術台の上まで「血の海」
救命士さんも多分出血の多さに驚いただろうなぁ
Nさん、クリニックを出発する時のヘモグロビンが4.7という数字で、体の半分以上は血を失ったと思われ
顔色は黄色と白の間くらい
昇圧剤と点滴3本で全開に落としながらも血圧は70~90/50 心拍数110~120で完全なショックバイタル
意識は搬送中も返事が何とか可能な状態で、救急車同乗の僕も「何とか市立病院までは持ちこたえてくれ・・・」と願うばかりでした。
市立病院到着後は救命センターで直ちにOマイナスの緊急輸血を用意してくれていて輸血開始。
到着後も子宮からの出血はコントロールつかず、子宮動脈塞栓で止血してくれ、何とか危機を脱してくれました。
術後ICUに面会に行ったら、顔色は真っ白だけど、元気に話してくれるNさんがいてホントにほっとしたのを忘れれません
今回のNさんの一件では
・硬膜外麻酔下の無痛分娩で緊急帝王切開が可能であった。麻酔施行済みだったので決定から7分で娩出に至ったと思います。
・人数の多い昼間の急変だったことが幸いしたこと。特に前に手術をしていたのが幸いしたなあ。やはりリスクの高い出産は昼間にもって行くのが良いと再認識。
・高次病院へ輸血の緊急性を連絡済みだったことも迅速な治療につなげたかなと思いました。(ホント連日の高次搬送になってしまい申し訳ない気持ちでしたが・・・)
今回は母児ともに救命しえた一例になりましたが、出産の現場って避けることができない、予測が難しい急変もあります。
ホント産科医療はおっかない
何でもリスクリスクと言って、患者さんを門前払いしてお断りして、安パイな患者さんばかり選んでたら、少しは危険に当たらないかもしれないけど、それでも完全な危険回避なんて無理。
困難な事例にあたった時に乗り越えられるようチームでますます伸びていかきゃならないと、この仕事の責任とともに重く感じました。
新たな命が始まらないと社会や国や地域・家族の未来も広がらないですからね
先生11月13日は本当に母子共に命を助けて頂きありがとうございました。
上の子供達は3人は室蘭で自然分娩で出産したのに4人目だけは初めて出産に対して死の恐怖を妊娠後期からずっと頭からはなれず、はだ先生のブログ見て絶対にここで出産しなきゃと思い、泣きながら電話したのを今でもはっきり覚えてます。受付の方が優しくてさらに泣いてしまいました。
今回出産したら私は本当に命がないかもと思い続けていたのになぜか、はだ産婦人科で出産したあの日は意識朦朧の中でも、大丈夫私ははだ産婦人科で産んでるし、赤ちゃん生きてたしと生きる自信満々でした。
後からかなり危なかったと聞いてビビりまくりでしたが(笑)
帝王切開後すぐに搬送されたので赤ちゃんの泣き声は聞こえたのですが顔を見てなくてどんな顔してるのかな?とか救急車の中で考えていたのも覚えてます。先生方の励ましの声もしっかり聞こえてたので安心してました。
本当にはだ産婦人科で出産できて良かったです。
皆さん本当に優しく笑顔が可愛いし♪私の話し相手になってくれたり、
私が若かったら絶対次もはだ産婦人科で出産したかった(´・ε・`)
はだ産婦人科の皆様ありがとうございました。
ご飯も美味しかったし、病室も丁寧に掃除して下さったり良い思い出です。
痔が痛すぎてわがままばっかり言ってごめんなさい(*`艸´)
はだ産婦人科最高(*´∀`*)
素敵な産婦人科にめぐり合わせてくれた神様にも感謝です♪
しのぶさん お返事コメントありがとございます。
今回は母児ともに無事にお家に戻っていただけて、ホン~トに嬉しく思います。
僕たちクリニックのメンバーにも忘れられない1例になったのは言うまでもなく、いろいろな改善点や、より良くするには・・・ってことを考えたくなる「事件」になりました。
こんなことご本人にズバリ言ってしまうのも問題ですかね?(~_~;)
大きな困難を乗り越えてうまれた赤ちゃんが、これからも、大きく育って、しのぶさん一家の希望として育ってくれることを心からお祈りしています。
子育ても家のことも無理せず、(優しい旦那さんに甘え過ぎず)頑張ってください!
またお会いできるのを楽しみにしています。
今回の記事ハラハラしながら読ませていただきましたが、母子ともに無事で何よりでしたね。
2016年、2018年と2回はださんで出産させていただきましたが本当にはだ産婦人科はおすすめです。
妊婦検診のときなど(基本割とすぐ呼ばれましたが)外来でたまに長く待たされたときはこんな緊急事態があったりしたんだろうなぁと思いました。
2人とも無痛分娩で産みましたが麻酔を入れておくことの大事さも再確認しました。
はださんでの産後入院は大部屋でも和室のおかげもあってか本当に居心地がよく、隣にはかわいい新生児もいて‥あの特別な入院生活をまた経験するためだけにもう一人産みたくなるほどです。(現実問題経済的にももう打ち止めですが笑)
気さくで明るくて頼りになる院長とテキパキ優しく頼りになる副院長。これからも子供の予防接種やガン検診などでお世話になりますので末永くはだ産婦人科を続けてくださいね。
受付の方が退職されるようで寂しいですが、また良いスタッフの方に恵まれますように。
あんずさん コメントありがとうございます。
「何事もないのが当たり前」と思われがちな産科医療現場ですが、思いもよらないことってたまに起こるんですよね
少しでも安全で安心な医療を・・・
そのためのシステムや、鍛錬を・・・とは思いますが、急変にあたるたびに医者の医療の限界を垣間見たような気持になって
この5年、いくつかの「事件」を経験しましたが、幸いなことに母児の命においては大事に至らなかったのが何よりの幸運かと感謝しています。
こんな稀有な危機的記事を書いてから言うのもなんですが、あんずさん家の3番目も安全に出産できるように準備してお待ちしたいますよ~(^^)/