医師会仕事「出産費用の保険化について」
2024年11月29日 金 雪
年の瀬も押し迫る11月末。北海道は一日中雪模様。もう明日で11月も終わりだもんなぁ
静だった当院の11月はこれまで21件の出産。今頑張って出産に臨んでいる産婦さんが出産したら22件になるかな?頑張ってほしいものです。今年1月からの分娩件数がちょうど400件に達したので、平均は1ヵ月36件ってとこで、あと1ヵ月で年間445件くらいを見込んでます。去年より12%くらい減る計算で、去年が多すぎだったのか、札幌市の減り方より少し多めです。
余裕のある1ヵ月だったのですが、出産以外は何かと忙しく、明日30日には札幌市医師会の臨時代議員会のという、総会見たいな会議があります。そこで、医療界で問題になっている様々なことが会員の医師たちから提起されて、医師会執行部が方針を明らかにするみたいな会議です。議題としてはマイナンバーカードと廃止されるカードの保険証の取り扱いとか、薬の供給不足の話とか、医療DXの進め方や、予算配分の問題とか多岐にわたります。
その会議で僕が手稲区支部からの意見・質問として話すことを、まとめているのがお産待ちながらのお仕事。ほぼ完成したので、長いですけど以下に貼り付けようと思います。
出産費用の保険化について
令和5年12月22日に政府は少子化対策の一環として、令和8年度を目途として「出産費用の保険適用」を打ち出し、閣議決定した。これに伴い現在、出産費用の保険化の検討が進められている。この政策の導入によって、妊婦の経済的負担が軽減されることが期待されている一方で、この大胆な政策変更には、いくつかの重要な問題点が考えられる。
そもそも「妊娠・出産は疾病にあらず」との方針は、昭和2年の健康保険法制定時にまでさかのぼる。「医療保険は疾病の為に突発的に生じる経済的リスクに備える防貧対策であり、妊娠出産は突発的とはいえず、数か月前から予測でき十分に対応できる」として出産費用への支援は疾病に対する療養の給付(現物給付)ではなく現金給付として、療養の給付の対象外とされてきた歴史がある。現金給付は時と共に名称を変えてきたが、平成6年から導入された出産育児一時金制度においても、現金給付の方針は変わらず、長い歴史の中で方針転換はなかった。
その間、日本の周産期医療は安全とサービスの両面を進化させ、周産期死亡率や妊産婦死亡率では世界最高水準の医療を維持してきた。サービスの進化と共に、首都圏や大都市周辺では出産費用が上昇し、反対に地方都市や過疎地では安価な出産費用を提示し、都市部からの里帰り分娩などで施設経営を維持している現状も見られる。本道の分娩費用は全国平均よりも低く、道内の地域間格差も少なくないが、札幌を含めた道内全域で少子化による経営悪化や、後継者不足から分娩取り扱いをやめる施設も10年間で3割を超えた。
出産費用の保険化により、妊産婦の負担軽減から、少子化対策の一役を期待する声もあるが、安価な出産費用の施設では出産一時金の余剰分を産婦に返金している現状もあり、患者の負担軽減は都市部の高額な地域が中心の話であり、妊産婦の負担軽減とは言い難い側面もある。
保険適用により出産費用の上昇は抑制されるが、都市部の産科医療機関にとって大幅な減収につながり、妊婦が受ける医療の質の低下や、産科医療の安全性が損なわれたり、さらには分娩施設の閉鎖につながり妊婦が選択できる分娩施設の幅が狭まるなどの懸念がある。
地方では経済負担の格差無しとなれば、里帰り分娩の減少は容易に想像される。現状でも維持困難な地方の分娩施設の経営悪化は、施設の減少に直結する。患者の医療アクセスが悪化し、地理的にも医療安全面でも患者は不利益を被り、周産期医療の破綻さえ見えてくる。
更に、こうした状況は産科医へのなり手不足に拍車をかけ、将来の産科医療の更なる危機に直面することも想像に難くない。
ちなみに、本邦よりも先に出産費用の保険化を果たしている韓国では合計特殊出生率が0.72(日本は1.20)と、8年連続で低下し出産費用と保険化が少子化を抑制する力はない可能性も示唆される。
出産費用の保険適用化が、これらの深刻な問題を引き起こすリスクを十分に考慮し、結論ありきの拙速な議論ではなく、慎重な議論の上での政策決定を、医師会として求めるべきだと考えるがいかがでしょうか。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。医師会執行部への質問という形ですが、広く産科医療の実情や問題点を知って頂けたら嬉しいです(^_-)-☆
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