古き日本人のような・・・ミャンマー人ご夫婦の出産
2024年7月31日 水 晴れ時々曇り
7月中旬の激しい暑さの1週間が終わり、北海道はここ1週間過ごしやすい涼しい日々が続いています。毎年の事ながら、本州での大雨と猛暑のニュースとは別世界。日本列島の災害の多さと、気候の違いに複雑な気持ちです。
さて、7月も最終日。今日の分娩で1ヵ月で49件目のたぶん今年最多の出産数の忙しい1ヵ月になりました。破水の患者さんでもいたら初の50件!?って事態でしたが、それは回避。当院継承後の10年9か月の歴史の中では最多タイでもありました。
中にはいろいろなお産がありましたが、数少ない非麻酔分娩で、記憶に残るミャンマー人Sさんご夫婦の出産もありました。Sさんはミャンマーから、当院のある札幌市手稲区に隣接する小樽市に、技能実習生として仕事で来ている旦那さんの奥さん。技能実習生ということで車もないし日本での生活は余裕があるわけでない様子。当院へはいちばん近い分娩施設とのことで初診されたようでした。初診当時、奥さんは日本語は全くと言っていいくらいに話せず、旦那さんが通訳に同伴してくれ、どこで出産する希望かとお聞きしたところ、国に帰るか当院で産むかを決めかねているという返事。当院で分娩するのは言葉の問題で難しいかなぁと思っていました。
妊婦健診が進み16週ころ、分娩する施設について再び確認したところ、「こちらの病院で産ませてほしい」と。帰国の予定だったのでは?と聞くと旦那さんが。「ミャンマーはいま軍がクーデターを起こし内戦状態で、帰国したら殺されてしまうかもしれない」というのです。分娩方法は?と尋ねると麻酔はしないで普通分娩というので、経済的にも余裕はないだろうしなぁと納得。でも、Sさんは日本語も話せないし、経済的にも日本とミャンマーではだいぶ違うと思うし、当院スタッフも「うちで周産期管理をしても大丈夫ですか?」と自信なさそうな声もありました。責任もって医療を提供するには、そういった声も当然あると思うので、僕もSさんご夫婦に、言葉の問題や経済的負担、急変時や想定外のことが起こる可能性なども説明して。通訳さんのいる大きな病院は考えてないのかと聞いたら、「病院に通うのも遠くなって大変だし、ここで見てほしい」とのお返事でした。
困っている人を助けるのも医療の使命と思って、スタッフみんなに当院で見ていく方針を伝え、Sさんには入院生活で困らないくらいの日本語は勉強してくださいねとお伝えし、当院で管理させてもらうことにしました。分娩方法はご本人のご希望通り麻酔なしですが、出産時の急変にもマンパワーで対処できるよう、計画での誘発普通分娩とすることにしました。
いざ、分娩誘発日。子宮口はカチカチの状態で、誘発日の前日入院として、子宮の中に水風船(メトロイリンテル)を留置。夜間は少しは痛みがあったと思うけど静かに耐えていたようです。2日目の朝7:30、水風船は子宮から抜けて膣内にありました。その時点で子宮口4㎝開大。そこから陣痛促進剤を点滴し、徐々に痛みは増強したと思いますが、全く静かに耐えています。12:00には自然に破水があって子宮口6㎝開大。多くの人は悲鳴を上げるほど痛がるころだけど声一つ上げずに頑張ってました。破水は「一番の陣痛促進剤」だけあって、見る見るうちに12:35には全開に至り、自力努責で痛いとも一言も言わず、13:06 経腟分娩になりました。赤ちゃんは3㎏超の元気な赤ちゃん。通訳兼応援団として、朝から立ち会っていた旦那さんも涙ながらに大喜び。異国で言葉もままならない奥さんの出産は不安もたくさんあっただろうなぁとお察しします。ホント良かった(*’ω’*)
まじめなSさん、入院生活はマイペースではありますが一生懸命。国によってやり方は違うのであくまでも、当院からの指導は日本式。話半分くらいで聞いてくれて自分のやり方で頑張ってもらえたらいいなとも思ってます。課題の言葉はまだまだ日常会話とまではいかないけど、入院前に頑張った様子がうかがえ、立派でした。産後5日目に赤ちゃんもSさんも元気に退院されました。
今回のSさんの妊娠・周産期管理をさせてもらった感想は、我慢強いかった!理由が祖国の戦争とはいえ、手助けの家族もいないし、不安な日本での出産なのに、わがままも何一つ言わず、じっと痛みに耐え、出産後は喜んでいる姿を見て、昔の日本の出産も、(うまくできる人って)こうだったんだろうなぁと考えさせられました。最近は様々な情報に振り回され、恵まれた妊娠・出産環境なのに、頭の中に不安や恐怖をいっぱい貯めこんで出産に臨む妊婦さんが多いです。今回のSさんは僕たち病院側からの情報しかないような状態で、頑張るしかなくて、かえって情報過多よりも良い方向に行った気がします。情報で不安を作り出す日本の皆さんにとって、安産するためのヒントに!?
Sさんご夫婦には、遠い外国で家族の手助けも少ないでしょうが。子育ても、頑張ってほしいと心から応援しています。
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