お産も人生も?苦痛を減らすのは受け入れること
2024年6月30日 日 晴れ
暑い陽気で、日中の気温は30℃に達したようです。連日の「今年一番」の気温にいよいよ夏本番の感です。それもそのはず、明日から7月だもんなぁ
連日ブログ書きにPCに向かっているのは、自分に課した「月に2回の更新」を達成できそうなのでちょっと頑張ってます。
で、今日の話題は分娩の疼痛緩和について・・・
当院を分娩場所の候補として選んで来てくれる患者さんの多くは無痛分娩希望で遠近様々な土地からお越しいただいています。しかし来院したら病院の雰囲気が違うとか、医者(僕)と合う合わないとか、説明を聞いてイメージと違ったなんてことがあって、他院へ転院していかれる方もいらっしゃいます。それに関しては僕としては残念な気持ちもありますが、一生で1回しかない(多くても数回)の危険を伴う大イベントの出産。納得のいく一番良い選択をして、乗り越えていただきたいと思うのは僕の本心。だからこそ当院を最終的に選んでくれた患者さんには最善を尽くし、最高の結果に至ってほしいと心底から願っています。
ですが、無痛分娩をしたからと言って「痛みがない」なんてことは全く保証できません。と言うより、あんなに大きな赤ちゃんを出産するのですから、痛くないわけがない。麻酔を実施してるあんたが無責任なこと言うな!とおしかりが聞こえてきそうな気もしますが・・・事実です(-_-)
患者さんとのお茶会で、ざっくばらんに産後の振り返り話を聞いていると、当院の無痛分娩をして、初産の方で全く痛くなかったという人は2~3割で、痛かったですよ~って明るくいう人が6~7割な印象。経産婦さんで初回普通分娩の患者さんに同じことを聞くと、痛くなかった6~7割:痛かった2~3割な印象です。僕は毎日ほぼ同じことを、同じタイミングで、ほぼ同じ薬の量でやっているのに、とても意見が分かれます。
初診の時に皆さんに「無痛分娩と言っても全く痛くないなんてことはないと思います」「無感覚分娩ではありません」と説明はしていますが、痛くなかったと言われると、僕としては嬉しい思いもあるし、お役に立てたのかなと思います。でも「痛かった」と言われると力及ばず申し訳ない気持ちと、何とかできただろうかという反省に至ります。そして、「痛かった」と「痛くなかった」が分かれる理由って何なのか?何が原因?と10年思い続けてきて、答えは出ませんが、今現在の僕の分析では、妊婦さんのお産前の「心」にあると思います。
現代のインターネットを中心とした情報社会はとてもいいこともありますが、妊婦さんにとっては良いことばかりではない。どこの誰が何の意図で書いたかわからない情報で、お産とは痛いもの。辛いものという「産んでもいないのに産んだ人」みたいな頭を作り上げてお産に臨む妊婦さんが多くみられます。「ネットは見ないで」と言うけど守れる人は少ないし、まあ見ちゃうよなぁ
僕が客観的な目で見て、お産なんて100人いたら100通り
誰一人として同じお産はないし。同じ痛がり方もない。同じ時間経過の人もなければ、ましてや同じ分娩方法(無痛・普通を含めて)でさえないかもしれない。なのでお産前に様々な情報をかき集めて、体験談を読みあさり、友人の(要らない)忠告を思い返して「予習」する必要はないと思います。
恐怖をあおるような動画やSNSの体験談も、楽すぎる安産体験も極めて小さな「参考情報」でしかなくて良いし、だから見なくて良いとお勧めします。
たとえるなら、車に乗って交通事故に遭いましたという体験談に触れます。ある人は、サイドミラーをかすった程度の接触事故、ある人は信号待ちで後ろからこつんと追突。ある人はトラックと正面衝突。それぞれの損害と衝撃と、転機(結果)は全く違うのに、車に乗る前に、それぞれの事故の体験談を見て頭に入れると、交通事故と言えば正面衝突みたいな頭になってしまう・・・みたいなもんじゃないでしょうか?それじゃ車に乗って楽しいドライブなんて行けるわけがない。
これ、コロナのマスコミ報道と似てるな。 脱線(*’ω’*)
僕らお産を任された医療者は、責任をもって最高の結果にしたいと願ってはいますが、すべてがそうなるとは限らない。ですが、外来診察を通じて患者さんとのやり取りの中で、過剰に不安がる人には安楽寄り、甘く考えすぎている人には厳しめな・・・ちょっとした情報操作を、分娩という危険を伴う大イベントをうまく完遂させるために、プロとして行っていると思います。そこが、ネットで得られる情報とは違う人のコミュニケーションが優位な点ではないかと。
出産の苦痛を減らすのに妊婦さんができることは、溢れた情報で心を右往左往させ予習するのではなく、経験したことのないどんな痛みかもわからない体験を、興味をもって楽しみ、近い未来にやってくるわが子との幸せを思いながら乗り越えていく「心の準備」が必要なのだと思います。普通分娩でさえ、乗り越えられない人はいないはずの「出産」。当院のほとんどは、そこに麻酔を追加するのですから尚更です。
いざ分娩が始まっても、ありのままの今を、できるだけ客観的に分析し、逃げたいと願うのではなく受け入れることで どんな苦痛も軽減できるんじゃないかと思います。その分析の判断材料になる情報はできれば、責任をもって診察にあたっている医療者から得られたものであるのが好ましいかと思います。
お産を乗り越えることって、人生における困難や苦痛を乗り越えることに似ているかもしれません。現状を受け入れ、味方してくれる家族や親友を頼り、冷静な分析で評価・対策することで超えていき成長するような・・・そんな気がします。
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